日本頭痛学会

HOME << 医師・医療従事者の方へ << 頭痛研究のトピックス

理事長挨拶
topics&information
ニュースレター
学会概要・組織
入会案内
頭痛学会誌
頭痛ガイドライン
国際頭痛分類
医師・医療従事者の方へ
会員専用ページ
一般の方へ
研修医・医学生へ
Link
サイトマップ
TRPM8発現低下は片頭痛リスク減少と寒冷疼痛減弱を引き起こす

Gavva NR, et al. Reduced TRPM8 expression underpins reduced migraine risk and attenuated cold pain sensation in humans. Sci Rep 2019;9:19655.

 

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

 ゲノムワイド関連研究によってTRPM8遺伝子のノンコーディング領域およびコーディング領域に存在するSNPが片頭痛発症と関連することが報告されている。特に、rs10166942[C]とrs17862920[T] (いずれもノンコーディング領域に存在)を有すると片頭痛発症率が低下することが知られている。TRPM8は寒冷暴露によって活性化される非選択的カチオンチャネルであり、三叉神経節 (TG)ニューロンや後根神経節 (DRG)ニューロンに豊富に発現する。本研究は、剖検検体から得られたDRGのTRPM8に関する遺伝子タイピングとmRNA発現量を検討し、その機能的意義と片頭痛発症リスクとの関連性についても考察を加えている。

【方法・結果】

 15名の臓器移植ドナーの死後4時間以内に採取されたDRG組織を検体とした。DRG組織からDNAおよびトータルRNAを調整し、後者からはcDNAを作成した。TRPM8遺伝子の発現を検討するのに適切なマーカーSNP (mSNP)を同定するために、barcoded amplicon sequencingという手法を用いて遺伝子配列の同定を正確に行った。その結果、TRPM8遺伝子コーディング領域にrs11562975[C]、rs28901637[T]、rs13004520[C]という3つのmSNPが同定された。さらに、片頭痛発症リスクと関連のあるrs10166942[T/C]とrs17862920[T/C]ヘテロ接合体の検出も行った。その結果、6名の検体においてrs10166942[T/C]で、かつ3つのmSNPのうちの1つでヘテロ接合体であった。また、1つの検体ではrs10166942[T/C]とrs17862920[T/C]の両方のヘテロ接合体が陽性であった。ヒトの遺伝子は1対のアレルが存在し、両方のアレルから同量のmRNAが産生されること予想されるが、実際には何らかの原因から特定のアレル由来のmRNA量が多くなったり、少なくなったりなることがある。この現象をallelic expression imbalance (AEI)と呼ぶ。TRPM8に関するAEIを調べたところ、rs10166942[C]を有する染色体上のアレル由来のmRNA産生量はいずれも低下していた (0.01~0.63)。さらに、rs10166942[C]とrs17862920[T]の両方のアレル陽性の染色体からは最も顕著なAEIが観察された。また、mRNA発現低下が確認されたmSNPはいずれもrs10166942[C]と同じ染色体に存在することがハプロタイプフェージング解析によって明らかにされた。一方、rs10166942[C]を有する者はTRPM8発現量が低いことから、寒冷疼痛閾値が低下していることが予想される。これを検証するため、cold pressor testと定量的感覚テストを用いて寒冷疼痛閾値 (cold pain threshold: CPTh)と寒冷疼痛耐性 (cold pain tolerance: CPTo)を38名の健常男性ボランティアを対象に検討した。38名の中にs10166942[C]キャリアは11名おり、そのうちの1名は[C/C]のホモであった。また、全てのrs17862920[T]キャリアはrs10166942[C]であった。実際に、rs10166942[C]キャリアは非キャリアに比較してCPThは有意に低く (3.26°C vs. 6.50°C, P=0.017)、かつ長い時間寒冷暴露に耐えられる傾向を示した (42.2秒 vs. 29.2秒, P=0.060)。片頭痛の発症リスクが高いrs10166942[T]キャリアは高緯度の寒冷地域で、より頻度が高いことが知られている。rs10166942[T]キャリアは寒冷刺激に敏感で熱産生が盛んとなり、その結果体温を高く保とうという機転が働くのではないかと筆者らは推測している。

【結論・コメント】

  本研究の結果から、TRPM8機能を抑制することは片頭痛発症に保護的に働くことが示唆される。現在、TRPM8アンタゴニストが開発されているが、これが片頭痛治療薬として有用なのではないかと考察されている。おそらくは片頭痛予防薬としての臨床応用が計画されていると推察される。TRPM8アンタゴニストは体温を低下させる方向に作用する。また、TRPM8アゴニストをマウスに投与すると顔面を含めたアロディニアが誘発されるという研究がある (Burgos-Vega et al. Cephalalgia 2016;36:185-93)。したがって、TRPM8機能阻害→片頭痛発症抑制というスキームは支持される。一方、片頭痛発作中には前額部などを冷やすことで頭痛が軽減するということはしばしば経験される。炎症スープを用いた片頭痛モデルではTRPM8アゴニストは病態を改善するというデータも存在する (Kayama et al. 2018;38:833-845)。かつ、TRPM8のTGニューロンでの発現状態は炎症によって増加することも同研究は明らかにしている。片頭痛の病態には神経原性炎症の関与が指摘されている。したがって、片頭痛急性期病態ではTRPM8アンタゴニストが必ずしも良い方向に作用しない可能性も考えられる。